「貞」の原義

貞初文
甲骨文の貞

易経にはやたら「貞」の字が出てくる。この「貞」について、現代でも多くは「貞であれば」といった読み下しとともに、身を慎めというという解釈を採用している。ところがこの解釈では非常に苦しい箇所が何箇所かある。「貞凶」とかかれている箇所が易経には910箇所あり*1、そのどれもが「不貞凶」といった否定語が「貞」につかない形で出てくる。多くはこの場合には「貞」を「貞凶」と読みはするけれども、「貞」を無視する形で解釈している。こういう解釈って、御都合主義だなと感じていたのだけど、実は「貞」の原義にもどるとこんな苦しい解釈を行う必要がなくなってしまう。

甲骨文の研究から商(殷)の時代には、王に直属の「貞人」とよばれる占い担当の神官がいたことがわかってきた。「貞」の原義は、ほとんど現代での「占う」と同義だったらしい。つまり易経の「貞」は古代の記憶がそのまま残っていて、「占」で読み替えて大丈夫と考えられる。「貞」に「うらなう」とは異なる訓をつけるとしたら、「かみといするに」くらいが適当なんじゃないだろうか。あるいは「貞」には既に「さだ」の訓があるので、「かみさだまりて」ないし単に「さだまりて」くらいが良さそうに思う。

なので「貞凶」は「占って凶」と解釈するのが素直だし、そちらの方が相応しいのではないだろうか。一応、易経の「貞凶」の箇所をあげておく。原文は例によって、雨粟莊さんのところから御借りした。

屯九五 屯其膏。小貞吉、大貞凶。
師六五 田有禽。利執言无咎。長子帥師。弟子輿尸貞凶。
隨九四 隨有獲。貞凶。有孚在道以明何咎。
剥初六 剥牀以足。蔑貞凶。
剥六二 剥牀以辨。蔑貞凶。*2
頤六三 拂頤。貞凶。十年勿用。无攸利。
恒初六 浚恒。貞凶。无攸利。
巽上九 巽在牀下、喪其資斧。貞凶。
節上六 苦節。貞凶。悔亡。
中孚上九 翰音登于天。貞凶。

*1:bigramを作って検証していたら10箇所あることがわかった。4/6追記

*2:4/6追加