小人、大人、君子

易経の経文には、『小人*1』、『大人*2』、『君子』といった人間を格付けした言葉で出てくる。以下だ。
まづ小人、

上六 大君有命。開國承家。小人勿用。
六二 包承。小人吉。大人否亨。
大有 九三 公用亨于天子。小人弗克。
初六 童觀。小人无咎。君子吝。
上九 碩果不食。君子得輿。小人剥廬。
九四 好遯。君子吉、小人否。
大壯 九三 小人用壯。君子用罔。貞厲。羝羊觸藩。羸其角。
六五 君子維有解吉。有孚于小人。
上六 君子豹變。小人革面。征凶。居貞吉。
既濟 九三 高宗伐鬼方。三年克之。小人勿用。

この10例の中で、君子との比較が行われているのが6例ある。大人との比較は1例。残り3例の内で2例は『小人勿用』として出てくる。この結果から小人は、ほぼ君子と比較される人間であると易経の中では理解されているようだ。そして大きな事を任せてはいけない人間とされている。

なお『大壮』の爻辞は「三公が天子のために軍を揃えれば小人は絶対に勝てない」と解釈することも可能だろう。

次いで、『大人』。

九二 見龍在田。利見大人。
九五 飛龍在天。利見大人。
有孚窒惕中吉、終凶。利見大人。不利渉大川。
六二 包承。小人吉。大人否、亨。
九五 休否。大人吉。其亡、其亡。繋于苞桑。
利西南。不利東北。利見大人。貞吉。
上六 往蹇、來碩。吉。利見大人。
亨。王假有廟。利見大人。亨。利貞用大牲吉。利有攸往。
元亨。用見大人。勿恤。南征吉。
亨。貞大人、吉无咎。有言不信。
九五 大人虎變。未占有孚。
小亨。利有攸往、利見大人。

12例ある。内、8例が『見大人』として出てくる。そしてその中の7例が『利見大人』となっている。つまり易経において『大人』とは面会することで何か利益のある人とされているようだ。そして利益供与ができるということは権力者ということになる。

最後に『君子』。

九三 君子終日乾乾、夕惕若、厲无咎。
元亨。利牝馬之貞。君子有攸往。先迷後得主。利西南朋得、東北喪朋。安貞吉。
六三 即鹿无虞。惟入于林中。君子幾不如舎。往吝。
小畜 上九 既雨既處。尚徳載。婦貞厲。月幾望。君子征凶。
否之匪人。不利君子貞。大往小來
同人 同人于野。亨。利渉大川。利君子貞。
亨。君子有終。
初六 謙謙君子、用渉大川吉。
九三 勞謙君子、有終吉。
初六 童觀。小人无咎。君子吝。
九五 觀我生。君子无咎。
上九 觀其生。君子无咎。
上九 碩果不食。君子得輿、小人剥廬。
九四 好遯。君子吉。小人否。
大壯 九三 小人用壯。君子用罔。貞厲。羝羊觸藩。羸其角。
明夷 初九 明夷于飛、埀其翼。君子于行、三日不食。有攸往、主人有言。
六五 君子維有解、吉。有孚于小人。
九三 壯于頄。有凶。君子夬夬獨行。遇雨若濡。有慍、无咎。
上六 君子豹變。小人革面。征凶。居貞吉。
未濟 六五 貞吉。无悔。君子之光、有孚。吉。

20例あった。大人よりも小人よりも多い。確かに易経は君子のための書物かもしれない。しかし大人ではなく権力とは無関係のようだ。そして『利見大人』という言葉が出てくる以上、君子のためだけに書かれたものでもないだろう。

以上、例によって原文は雨粟荘さん易経からお借りした。句読点は三浦國雄先生の『易経』に従った。

*1:“こども”でも“こびと”でもなく“しょうじん”。使用人の意味で使われることもある。

*2:当然、“たいじん”であって“おとな”ではない。