2022年ノーベル物理学賞

量子力学が嫌いだったアインシュタイン

アインシュタインノーベル賞を受賞した光電効果*1の解釈によって、光の持つエネルギーが連続量ではなくて1個1個数えられる離散的なものであることをしめした。この研究はプランク黒体輻射の研究と合わせて量子力学の始まりとなったけれども、量子力学の根底に確率があって全てが確定してるわけではないことからアインシュタイン量子力学が嫌いだった。

それでアインシュタインは色々と量子力学にケチをつけている*2。そのアインシュタインの最後のケチが、『アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックス』だった。アインシュタインらの主張は、そのものでは無いけれども大まかにはこんな感じだ。

  1. 量子もつれにある2つの粒子を考える。
  2. その2つの粒子を互いに逆方向に飛ばす。
  3. その2つの粒子の間の距離が充分な所で、一方の粒子のスピンを測定する。
  4. 測定した粒子のスピンが確定すれば、他方の粒子のスピンも同時に確定する。
  5. 量子力学が言うように測定するまで粒子のスピンが確定しないなら、元々の2つの粒子は超光速で通信を行ったことになる。
  6. 納得できん。

これが切っ掛けになって、全ての情報の伝達が光速を越えることがないという『局所性』、全ての物理量は測定する前から確定しているという『実在性』の両方を仮定した時にどうなるかを考えたのがジョン・スチュワート・ベルで、ベルは局所実在性の仮定のもとで成立する『ベルの不等式』を導出した。このベルの不等式の別の表現にCHSH不等式がある*3

2022年のノーベル物理学賞は、このCHSH不等式が成立しないことを最初に実験でしめした、Alain Aspect、Philippe Grangier、Gérard Roger に贈られた。この巧妙な実験の詳細は“Experimental Realization of Einstein-Podolsky-Rosen-Bohm Gedankenexperiment: A New Violation of Bell's Inequalities”と題して Physical Review Letters に投稿されて受理された。1982年のことだ。

これによって局所性か実在性の少なくともどちらか一方が成立しないことがしめされた。
ところで局所性は、原因と結果の順序が保たれているという因果律でもある。今の所、因果律が破れていなさそうなので、実在性が疑わしいことになる。
なお局所性が保たれているということについては、さらに強い理由があるみたいだ。

では実在性が怪しいということになった時に、量子もつれにある2つの粒子が超光速通信を行っているのかというとそうではない。これについては田崎先生が量子もつれを使った超光速通信ができないという解説の動画をあげられている。


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従革

金属を金属たらしめるもの

金属は以下のような特徴を持っている。

  • 金属光沢
  • 電気と熱の良導体
  • 展性・延性

金属の展性・延性に着目したせいか、五行の金行は『従革』の別名がある*1
この金属の特性は、金属中の自由電子がもたらしたものだ。自由電子が金属表面で光を散乱することから金属光沢が、自由電子が電気を伝え、熱運動も金属結晶の格子による熱拡散よりも圧倒的に速く自由電子によって伝わる。

そして自由電子が雲のように金属の結晶格子を包んでいることで、外力によって格子が変形したところで金属全体が破壊されることがない。
これは焼き入れなどの急速な温度変化による結晶格子の変化にも金属全体が破壊されずに追随できる理由でもある。

ということで五行の金行の象に金属の性質が含まれている以上、五行論的には電気現象は金行に含まれると考えている。まあ小成八卦の震を雷と採るなら八卦として電気現象は木行となるだろうけど、そこは易卦と五行がシームレスに統合されてはいないということだろう。

ところで、

で、金寒水冷の相性いいと凶命のギャップで笑ってもらおうと思ったんだけど伝わらなかったみたいだ。分かり難いギャグを書いて申し訳ない。

*1:なお水行には潤下、火行には炎上、木行には曲直、土行には稼穡と、それぞれ名前がある。

日月建

安宅の呪符

遠野市立博物館の長谷川副主幹兼学芸員から頂いたメールによると件の呪符は、

資料名 安宅(あんたく)
受入年月日 昭和55年4月18日
資料所在地 岩手県遠野市青笹町 個人所蔵
内容 
山伏関係資料
地鎮祭や新築の際の家屋安全のまじないに使用したもの

ということで、宅地や家屋の修祓のためのものだったようだ。ところで現物にあたってみるとtweetの写真よりも符の枚数が多く9枚ある。
そしてその中の2枚が「日月建」で始まっている。『建』は十二建除*1の建だろう。

北斗七星の柄を構成する廉貞、武曲、破軍が指す方角を斗建*2といい十二支で表記する。ある時刻の斗建が1つの十二支の中にある時その十二支を月建とよび、その期間が『節月』となる。月建が切り替わる日時が節入りだ。十二建除は節入りを過ぎて最初にくる日支が月建と同じ日を『建』として、以下、除、満、平、定、執、破、危、成、収、開、閉と十二支の順に割り付けて行く。日本では訓読みが普通になっているのもあって『危』の日は凶とされているけれども、本来は除、定、危、開を吉日とする。これが奇門遁甲での元々の四地戸法だ。董公択日では四地戸の吉日の他に月建毎に吉となる日が付け加わる。

おそらくは安宅の呪符は建に建築の意味を持たせて、宅地や新宅の修祓に用いたのだろう。

*1:日本では十二直とか中段とよばれている。

*2:それで『建』には“おざ-す”の訓がある。

戌魁罡

遠野市立博物館に行った

このtweetを見て、展示されている『呪符』が全て「戌魁罡」で始まっていることに気が付いた。
六壬黄道十二神*1の中の春分点から始まる河魁と秋分点から始まる天罡の総称として『魁罡』がある。そして河魁を十二支で表記する時には『戌』となる。ならばこの呪符は六壬影響を強く受けていると考えて良いだろう。

非常に興味をひかれたので展示している遠野市立博物館まで行ってきた。上記tweetの写真から受けたイメージ*2と違って現物は15cmくらいの小さいものだった*3

山伏が書く呪符だそうだけれども六壬の影響がある以上は陰陽道と関わりがあったと考えて良いだろう。どれくらいの時間がかかったのかは分からないけれども京都の朝廷が管理していた六壬の情報が呪符と言う形で東北の遠野まで伝わったということだ。

本日は日曜で学芸員の方がいらっしゃらなかったので「メールで質問させて下さい」と名刺を置いてきた。

*1:太陽が位置する時に『月将』となる。

*2:卒塔婆くらいあるかと思ってた。

*3:そのせいで職員の方に御世話になった。ありがとうございます。

蛤、辰、蜃気楼

二枚貝象形文字

先日『申』字が稲妻の象形文字という『稲妻、申、電、神』のエントリを上げたけれども、同じように象形文字から出発して、多義性が限界を越えて偏や冠で字義を限定した文字が作られた文字が、十二支には『申』の他にもある。『辰』がそれだ。『辰』は二枚貝がクチを開けて足を出してる様から作られた。辰-Wiktionaryには、こう書かれている。

二枚貝から、びらびらとした肉がのぞく様。「蜃」の原字。唇(びらびらとした肉)、振・震(ぶるぶるふるえる)など同系。

辰の多義性から、本来の二枚貝の意味を持つ『蜃』が作られたというわけだ。

中国では蜃気楼は大蛤が吐く気から出来ると考えられていたので、

蜃(蛤)が吐く気で出来る楼閣

ということで『蜃気楼』の語が出来上がった。日本でも『蜃気楼』には“かいやぐら”の訓がある。

Wikitionaryでは、辰が十二支に組み込まれた理由を、

動植物が奮い立つ様から十二支の5番目(5月 初夏)にあてられた。

と書いてるけど、私は全然信用していない。本当の所は忘れられていると思う。そして命獣に竜*1が配当された理由なんて誰も覚えちゃいない。

後、辰が二枚貝なのを知っているので『震』が雷というのも対応付けにごくわずかな間がある。これも雷鳴で空気が震える所から来ているのは間違いないと思っているけどね。

オレの紫微斗数には悪が足りてないみたいだ

マンガ『クロサギ』シリーズ

ちょっと気が向いたのでマンガの『クロサギ』シリーズ*1をそろえて読んだ。『クロサギ』シリーズは、主人公*2が、詐欺師に詐欺を仕掛けて破滅させることを繰り返しながら、自分の父親を破滅させた大物詐欺師や銀行家に肉薄し仕留めて行く話だ。もっともその大物詐欺師や銀行家と主人公に詐欺師の情報を与えるオヤジが深い関係にあるという、ちょっと複雑な構造を持っている。主人公はオヤジの目を搔い潜りながら大物詐欺師や銀行家に迫って行く*3

で、こういう面白いマンガを読んでやるのが、登場人物のキャラクターを占いで使う象徴と対応付けて行く遊びだ。遊びといっても象を錬るのにはもってこいだ。

でハタと困ったのが、紫微斗数の星との対応付けだ。六壬の天将なら桂木のオヤジは玄武で決まりなんだけど紫微斗数だと余りピンとこない。桂木なら武曲くらいだろうけど、武曲では悪が足りない感じがする。キャリアのくせに詐欺師に暴力を振るうことを厭わない刑事の神志名とか六壬なら白虎かなとなるけど、紫微斗数の主星だと何になるのだろう?廉貞とか当てはめると、クセの強い登場人物ばかりなので廉貞ばかりなってしまいそうだ。

少なくとも今の私にとっては、ピカレスク・ロマンと紫微斗数は噛みが悪い。多分、象の練りが甘いのだろう。悪人の命盤とか集めてみたら何か見えてくるのかもしれない。

*1:クロサギ』、『新クロサギ』、『新クロサギ完結編』

*2:黒崎高一郎という名前らしい。

*3:もっともオヤジである桂木は全て知っているのだけど。

稲妻、申、電、神

稲妻の象形文字

『申』字は稲妻の象形文字春秋時代までは書体が安定しているけれども、戦国時代から変化を始めて今の『申』字となって行く。図は申-Wiktionaryから拝借した。

物理的には稲妻は放電現象になる。雲の中で摩擦による静電気が発生し、それが雲の中に蓄えられて大気が静電気に耐えられなくなって絶縁破壊が起こることで稲妻が発生すると考えられている。古代人にとって稲妻は、光るものであり、伸びるものであり、神の顕現でもあった。なので申字は電、伸、神等を兼ねていたけれども、字義の多重性が限界を越えたのだろう、偏や冠を加えて限定した字義を持つ、『電』、『伸』、『神』などが造字されることになる。

五行論としては放電現象を含む電気現象は金行に配当されると考えている*1

申が電の元になった文字である以上、日本の『電』よりは簡体字の『电』の方が本来の字義を保っているのではないだろうか。簡体字をバカにする人もいるけれども、日本の漢字だって割と好い加減な所があるのは覚えておいて損はないだろう。

この申がどういう経緯で十二支に組み込まれて猴*2という命獣が割り当てられたのかは、遥か遠く所忘却の彼方に行ってしまった。

ところで、神代文字の1つである阿伎留文字には簡体字の『电』みたいな文字がある。

画像がかすれて判別がし難いけれども、最初の画像の小篆のような矢羽根みたいな上部から出た尻尾が『电』のように跳ねている。
この文字は五十音の『サ』で使用されている。(サル)の“サ”だ。

神代文字が日本固有の文字ということはあり得ないけれども、古代の文字の書体を保存しそれを使うことを必要とした人達がいたという可能性は捨てて良いものではないだろう。
原田実著『図説神代文字入門』では、こういったことを踏まえてだろうか、神代文字に古代の文字が紛れ込んでいる可能性を捨てていない。

なお江戸時代に袋中上人が沖縄で神代文字を採集して『琉球神道記』に記録したのは1605年であり*3、一方、中国で考古学者の王懿栄が文字が刻まれている甲骨を価値のある骨董と見なして王襄と共に大量に収集し始めたのは1899年なので、古代の書体を保持していたグループは甲骨文字の発見以前から活動していた可能性が高い。

*1:陰陽というか、易からはまた別の観点があるだろう。

*2:中国では猿と猴を明確に区別している。確か猿は尾が長く猴は尾が短いという区別があったと記憶している。

*3:十二支とされている12文字の最初の3文字は、甲乙丙の甲骨文の近い書体となっている。