岡野玲子さんの『陰陽師』

この課式は変

傑作の誉れ高い岡野玲子さんの「陰陽師」が完結し、しかも最終巻では晴明対道満の射覆*1合戦とくれば、読まないわけにはいかないだろうということで読んだ。

いきなりがっかりしてしまった。まず一つは、八月二十九日に占ったことになっているにも関わらず、堂々と辰月と書いてあるところ。これは辰将の誤記なのは間違いないが、太陰太陽暦で寅月が正月なら八月は酉月でしょう。

次は覆物*2が橘の実なのだが、橘の実が熟すのは冬だということ。

最後にこの課式の天将の配布がありえない配布であること。特にこれはヒドイ*3。この岡野「陰陽師」における天将の配布方法では、天将配布の起点となる天乙貴人が河魁(戌)にいることになっている。

しかし私の知っている限りにおいて、貴人は河魁(戌)と天剛(辰)には絶対に回座しない。現代に伝わる略决の写本においても、こんな貴人の配布は存在しない。後書きを読むとかなりドタバタの中での執筆のようだったが、せめてこの課式は小坂先生に監修してもらうべきだったろう。

なお道満が不貞を読み取っているが、これは八専課帳薄不修格からとることができる。しかし、晴明が「こみ上げる至福感を止められぬ」とつぶやいている以上、相当に吉の課体である必要があるだろう。

ということで、この課式は射覆合戦の課式にはあまりにもミスマッチと思う。

付記
今気が付いたけど、岡野さん地盤に天将を振りましたね。ちゃんと天盤に振らないと。なお細かくてすみませんが、晴明の時代に天盤の神を十二支で呼ぶことはありません。丑じゃなくて大吉、亥じゃなくて徴明と呼ぶはずです。これは晴明の子孫ので鎌倉時代初期に活躍した晴光の時代でもそうです。

私ならどうする?

では私ならどんな課式を選ぶだろうか?目出度いということで全局格の曲直、できたら亨通格くらいも付けたいところだ。占った季節は冬なので、木行が黄色の妻色となるのは火行の日で、全局という条件からは丁日しかない。ちょうど丁卯日にいいのがある。ぎりぎり亥月とすると、午刻の占いということになる。

課式を出すと、ちょうどうまく陰日の射覆で重視する第三課が亥で貴人がついている。貴いものものをしめす。亥の数は4か6、曲直である木行の数は3ないし8、6と8をとれば14になって、橘の実の数になる。六合の6、曲直の四角形、全局の3と数もうまくそろっている。また第三課は日鬼なので、食べられないものであるところも合っている。

おまけに二女一男の逆で二陽一陰になっているが蕪淫格で家庭に乱れありのオマケがついているところがよろしい。私はこちらの方が六壬の課式として正しく、射覆の定法をふまえていて、マンガの中で採用されている課式より内容に即していると思うがどうだろう。

*1:「せきふ」と読む。箱の中に隠したものを占って当てる、いってみれば遊び。ただし術を錬るには有効。

*2:射覆の課題。

*3:六壬者にとっては、あまりにヒドイ間違いなので最初、見逃してしまった。