白井為賀の閏奇法

暦が要求する連続性

白井為賀が『陰陽方位便覧』で解説している『閏奇法』つまり日家九星の閏の置き方は以下のようになっている*1

日家(ヒノ)九星(キウセイ)起例(キレイ)
陽遁(ヤウトン)百八十日陰遁(イントン)百八十日スベテ甲子(カウシ)ニ從フテ(メグ)ル。
(ヲヨソ)一歳(ヒトトシ)ノ内甲子ハ六周(ムメグリ)シ、九星ハ順逆(ジュンギャク)四十(ヘン)ス。
共ニ其数(ソノスウ)三百六十日コレヲモツテ気節(キセツ)ノ三百六十五日二十五(コク)(アツ)ルユヘ、九星ノ(メグ)(ツネ)ニ気節ニ(サキ)ダツコト一歳ノ内五日二十五刻ナリ。
四ヶ年ヲ()レバ其差(ソノチガイ)二十二日ヲ(ツミ)テ、(スデ)一気(イツキ)*2()ヲ先ダツ。
コノユヘニ四ヶ年(マエ)ノ十一月冬至(トウジゴ)甲子(キノヘネ)()(イマ)退(シリゾ)(ツテ)テ十月ノ内ニアリ。
十月ハ陰遁ノ時節(ジセツ)ナレバ、コノ甲子ノ日イマダ冬至陽遁の(レイ)(ヲコ)シガタキニアラズヤ。
ヨツテコゝニテ暦家(コヨミ)(ウルフ)ノゴトク(ツギ)ノ十二月ノ甲子ノ日マデ六十ヶ日ノ閏奇(ジユンキ)(モチ)ヒテコレヲ平均(ヘイキン)ス。
其法(ソノホウ)タル上三十日ヲ閏奇(ジユンキ)陰局(インキョク)()ヅケ、陰遁(イントン)百八十日ノ(スベ)聯附(レンフ)*3シ、(スナハチ)甲子ノ日九紫(キユウシ)(ヲコ)シテ九星(キウセイ)次序(ツイデ)日々(ギヤク)退(シリゾ)キ十一月癸巳(ミヅノトミノ)日七(セキ)ヲモツテ陰閏(インジュン)(ヲハリ)トス。
又下三十日ヲ閏奇ノ陽局(ヤウキヨク)ト名ヅケ陽遁(ヤウトン)百八十日ノ(ハジメ)ニ聯附シ、則甲午(キノヘムマ)ノ日七赤ヲ起シテ九星ノ序次(ツイデ)日々順(ジユン)(スゝ)ミ十二月癸亥(ミズノトイ)ノ日九()ヲモツテ陽閏(ヤウジユン)(ヲハリ)トス。
コゝニヲイテ閏奇六十日(マツタ)(ヲハ)ル。
ヨツテ(ヨク)甲子(キノヘネ)ノ日(レイ)ノゴトク一白ヲ(ヲコ)シ、コレヲ陽遁上元(ジヤウケン)(ハジメ)メトスルナリ。
夏至(ゲシ)閏奇ノ(ホウ)(マタ)(シカ)リ。甲子ノ日四月ノ節中(セツチウ)ニアリテ、イマダ陰遁ノ例ヲ起スベカラザルトキハコレヲ(モチ)ユ。
則チ上三十日ヲ閏奇ノ陽局シ*4甲子ノ日一白ヲ起シテ九星ノ次序日々順ニ進ミ、五月癸巳(ミヅノトミ)ノ日三(ヘキ)ヲモツテ陽閏(ヤウジユン)(ヲハリ)トス。
又下三十日ヲ閏奇(ジユンキ)陰局(インキヨク)トシ甲午ノ日七赤*5(ヲコ)シテ九星ノ序次(ツイデ)日々(ギヤク)退(シリゾ)キ六月癸亥ノ日一白ヲモツテ陰閏(インジュン)ノ終トス。
ヨツテ翌(ヨク)甲子ノ日(レイ)ノゴトク九紫ヲ起シ、コレヲ陰遁(イントン)上元(ジヤウケン)(ハジメ)トスルナリ。
閏奇(ジユンキ)起例(キレイ)奇門家(キモンカ)ノ閏奇接気(セツキ)(ホウ)(ナラ)()發明(ハツメイ)スル所ニシテ、(カノ)對位(タイイ)ノ甲午ノ日以テ甲子ノ日ニ(カヘ)先天(センテン)坎卦(カンクハ)ノ地ニ(クライ)セル七赤ヲ以テ(カウ)天坎卦ノ地ニ位セル一白ニ(カヘ)冬至(トウジ)陽順(ヤウジユン)ノ序ヲ起シ、先天(センテン)離卦(リケイ)ノ地ニ位セル三碧ヲ以テ(カウ)天離卦ノ地ニ位セル九紫ニ換テ夏至(ゲシ)陰逆(インギヤク)ノ序ヲ起ス(タウ)自然(シゼン)條理(ジヤウリ)(カナ)ヘルコト(フカ)玩味(クハンミ)スベシ。

実際に手を動かして九星暦を作ってみれば分かるけれども、上中下の三元を尽くしても二至の前の正節*6を越えることができない時に閏を置くことになる。

例えば 2019 年は5月27日甲子から陰遁開始でこの甲子から上元が始まる。次いで7月26日甲子から中元、9月24日甲子から下元がそれぞれ始まるけれども、下元が尽きる11月22日癸亥に至っても大雪を越えることができない。
これは「コノユヘニ四ヶ年前ノ十一月冬至後ノ甲子ノ日、今退キ去テ十月ノ内ニアリ」に相当している。

そこで23日甲子から閏が始まる。22日癸亥は一白なので23日甲子はそのまま陰遁を続けて九紫として、癸巳となる12月22日まで陰遁が続く。12月22日癸巳は七赤となる。
これが「則甲子ノ日九紫ヲ起シテ九星次序日々逆ニ退キ十一月癸巳ノ日七赤ヲモツテ陰閏ノ終トス。」という閏前半の陰閏の置き方に相当している。

そして次の日の23日甲午を七赤として陽遁が始まる。すると次の癸亥となる2020年1月21日は九紫となる。ここで閏が尽きる。そして翌日22日甲子が一白となって上元が始まる。
これが「又下三十日ヲ閏奇ノ陽局ト名ヅケ陽遁百八十日ノ首ハジメニ聯附シ、則甲午ノ日七赤ヲ起シテ九星ノ序次ツイデ日々順ニ進ミ十二月癸亥ノ日九紫ヲモツテ陽閏ノ終ヲハリトス。」に相当している。

閏を入れるのが夏至の場合は閏の陽遁が尽きる癸巳が三碧となるので、甲午は三碧を繰り返して陰遁が始まり癸亥で閏が尽きることになる。

閏が有っても無くても陰遁陽遁の境界では踏み換えが行われており、九星の変化は連続で滑らかになっている。
白井為賀は奇門遁甲の超神接気を参考にしてこういった日家九星のシステムを作り上げた。

この日の九星と同じシステムで遁局を出している透派奇門遁甲では一捻りしてあって、二至から陰遁陽遁を切り替えることにしている。田口真堂さんの『奇門遁甲入門(プレイブックス)』は透派奇門遁甲の入門書で、巻末の日局の表は二至の前後から陰遁陽遁を繋いで行って二至に到るやり方を使っている。

閏が無い場合は一一か九九の踏み換えなので二至にある二つの局数を足すと 10 になる。図にするとこんな感じになる。

これが閏のある場合、夏至の場合は足して 7 ないし 16、冬至の場合は足して 13 もしくは 4 になる。

黒門さんの『活盤奇門遁甲精義』でも基本は同じで二至の日に陰遁陽遁の切り替えを行っている。ただ『活盤奇門遁甲精義』の遁甲暦では二至の日の遁局は二至後の遁局しか出していない。『全伝奇門遁甲〈上巻〉』の遁甲暦は二至の前後の両方が出ていたように記憶している。

この辺りは自分で手を動かして暦を作ることが強い基礎につながると思う。

*1:陰陽方位便覧 (上36丁) 訂補版』の35コマと36コマより翻刻した。

*2:節気から次の節気までを『一気』としている。およそ15日強。

*3:“ツラネ”のルビもあり。

*4:“トシ”の誤記ではないか。

*5:三碧の誤記。

*6:夏至なら芒種冬至なら大雪。