ネガとポジ

今日は朝から断水ということで明け方に洗濯して惰眠をむさぼっていたのだけど、昼前に起きてメールのチェックをしていたらid:chochonmageさんからのIDコールがあった。

真実を探すブログ』というサイトに『【朗報】運命は自分で決められることが科学的に判明!アインシュタイン提唱理論、100年来の論争決着か!量子の非局所性の厳密検証に成功!』というエントリが挙がっていて、内容についてのid:chochonmageさんの疑問のブコメIDコールされていた。

量子力学と運命については以前、数学の『不完全性定理』とハイゼンベルクの不確定性の不等式を脳内でリンクさせた結果、全ての事象は不確定なので前もって定まった運命などないという主張に反論したことがある。

『運命』についてのネガティブな主張だったわけだが、今回の『真実を探すブログ』さんのエントリは、『運命』についてのポジティブな主張ということになる。どちらも不確定性原理についての研究から引っ張って来ているので、私の中ではネガポジだ。

で、私もずっと誤解していたのだが、サイエンス別冊の『量子の逆説』を読んでみると、EPRパラドックスについての最近の見解は、ベルの不等式が実験的に否定された以上、EPRパラドックスパラドックスではなく、その前提となっている局所実在の仮定が間違っており、局所性ではなく実在性の方が怪しいということになって来ている。つまり量子力学の世界では測定して物理量が決まることによって初めて実在も確定するというわけだ。

さて『真実を探すブログ』さんの件のエントリには以下の記述がある。

量子力学では人間が観測した物質の動きが変化する事が前から分かっており、人間が物を見るだけでも影響をあたえることが判明していました。

これはどう読んでも、エントリのタイトルにある局所性の否定ではなく実在性の否定だろうと感じるのだがどうだろう。

確かに『量子の逆説』には、量子の世界では測定対象はどんな測定が行われるのかを測定前から知っているとしか考えられないような現象が起こっていることが書かれている。しかしその実験は人間の意志を極力排除した実験環境を作り出すことによって可能となっている。なので『人間が物を見るだけでも影響をあたえる』なんてことはないだろう。

ついでに言っておくとEPRパラドックスのEはアイシュタインのEだが、アインシュタイン達は、

局所実在論に立ったら、量子力学って胡散臭いんでネーノ

と言っていたわけで、アインシュタインが非局所性を積極的に主張したことは一度もないだろう。その点で、『真実を探すブログ』さんやその元ネタとなった『アインシュタイン提唱理論、100年来の論争決着か 東大教授ら』、『量子の非局所性の厳密検証に成功――新方式の量子コンピュータにも道 (1/3)』といった記事は根っこのところで間違っていると思う。