自己言及性で占いは説明できるのか?
占い師が依頼者に対して「あなたはこういう人ですよ」とか「これからこういう事が起こるでしょう」と言及することで、それを受け入れた依頼者が自らを規定してしまうとか、占い師が言った現象が発生し易い行動を取ることで、結果として占いが当たってしまうというのが、自己言及性による占いが当たる機構というわけである。
学としての検証ができていないので個人的な感触にとどまるが、占いが当たる場合に自己言及性の機構とは異なる機構で当たってしまうことはあると思う。例えば昭和の易聖、加藤大岳*1は戦後の一時期行われていた野球クジ*2を占って当てて得た懸賞金を生活の足しにしていたというし1口くらい買うと良く当てたというし*3、また射覆(せきふ)がある。
古式ゆかしい射覆では、出題者が前もって箱に物を入れておいてフタをし、占い師は占って箱の中身を当てるということが行われる。藤原定家の名月記には、凝り性の後鳥羽上皇が名だたる陰陽師を集めて射覆大会を行ったことが記録されている。出題は亀形の硯であったが、安倍晴明の6代の子孫の一人である安倍晴光が六壬を使って光沢のある亀形の水器と占って当たりの栄誉に浴している*4。
このように射覆や勝負占といった分野は、自己言及の影響がかなり小さく*5自己言及性では当たることが説明できないだろう。また晴光が出したような回答が偶然に当たる確率を計算することは私にはできないが、かなり小さいのではないだろうか?
もっともTVで偉そうにしゃべるおばさんが当たるとしたら、あの強引な自己言及の影響が相当に大きいだろうとも思うが。
では占いが当たる機構は他にあるのだろうか?
占いの技法は大きくわけて3つに分類されるだろう。
この中で霊感は誰にでも充分な感度で備わっているわけでもないし、霊感を必要なレベルで維持するのも困難なので、ここでは触れないことにする。また相術もここでの話の趣旨からはずれるので触れないことにする。
時刻をトリガとする術が当たるとすれば、その当たる機構は時間そのものに秘められているだろう。この世界は共通の時間という単一のクロックで同期させられた複雑系のシステムと考えられる*6。このような世界では、本来無関係と考えられる出来事が同期して起こるということがよくある。例えば隣人が朝ゴルフクラブの素振りをする時刻と新聞が配達される時刻といった組み合わせである。人間はこういった関連付けを行うことが得意*7で、対応付けがうまく行った場合には当たることになるだろう。乱数においても、うまい対応付けのできる乱数出力が得られれば当たることになる。
また複雑系のシステムでは、サブシステム間に自発的で同期した周期運動が発生しやすい。西洋占星術にしても中国占術にしても占いのシステム自体に周期性が組み込まれているので、現実と位相が合えば当たるだろう。(10/08追記)
ただひょっとすると世界そのものが自己言及によって変容する性質を根底に持っているかもしれないという可能性*8や、世界を構成するもの全てが何らかのペアリングを前もって施されているという可能性もないわけではない*9。
閑話休題
「ゲーム脳の恐怖」の次は「メール脳の恐怖」だそうな。「バイオフィードバック脳の恐怖」*10とか「座禅脳の恐怖」*11とかも出してくれるのだろうか?以下は必読。
http://www.tv-game.com/column/clbr05/
で、地震ですか。天変地異が続くね。
せめて「如来 - Wikipedia」くらいは引いてみようぜ。
*1:昭和の易聖の名前に一部とはいえ「加藤大」でキーワードリンクが付くのはさすがに許せなかった。キーワード作りました。
*2:1948-1949 勧業銀行が発売元。球場の中だけで発売された。
*3:mixiの知人から懸賞金で生活していたというのは間違いだとの指摘があった。(2007/08/20)
*4:晴光もさすがに嬉しかったらしく、大会の翌日会った定家に射覆大会の話をしたため記録に残ることになった。
*5:無視できると感じている。
*6:相対論の影響は置いておくことにする
*7:「情報の流行学」では人間の持つ強力な対応付けの結果を所与のものとすることが厳しく戒められている。
*8:essaさんに引用してもらったおかげでタイポに気がつきました。Thank you. 10/08
*9:ペアリングされていることがはっきりしていれば、一方を測定すれば他方の特性も判ったに等しい。
*10:脳波を計測してα波が沢山出ると音を出すとかして使用者に教える機械。使用者はこれを使って意識的にα波が出せるように訓練する。
*11:座禅中のお坊さんの脳波がα波優位なのは有名。バイオフィードバック装置はこの座禅中の脳波を、一般人がいつでも出せるように訓練するために作られた。