安倍晴光の射覆

拙著も絶版だし

昨日の『射覆はそんなに得意ではないんだけど』のエントリで触れた安倍晴光の射覆にneanderthal yabuki (id:Nean)さんが喰いついてくれたので、ちょっと詳しく書いてみることにする。拙著他でも書いたことはあるのだけど、拙著も絶版なので書いておくことにする。この射覆の話題は@niftyでの玄珠さんのポストが切っ掛けになっている。

正治二年九月七日に後鳥羽院*1陰陽師を招集して射覆を行わせた。時刻は申刻だった。安倍晴光*2もそのメンバーだった。この時刻から得られる課式はこんな感じになる。晴光の時代なので天将の配布方法は古法になっている。また天盤十二神は古名が使用されている。日本では歳差運動の話は知られてなかったので月将もまた月で替わっている。この課式から招集されたメンバーの多くは「きんぎょくの類」とか答えていた。そんな中で晴光はすこぶる具体的な回答を出した*3。こんな回答だった。

之ヲ推スニ、糸帛ヲ以テ緒ト為ス。
印鑑ニ非ズ。光色有ル水器。
其ノ像ハ亀甲ニ類ス。
虫三百六十、霊亀ヲ之ノ長ト為シ北方ニ在ル。終ニ神后ヲ得ル。是也。

もったいぶった言い回しを除くと回答としては、

  • 光沢のある水器
  • 亀型
  • 糸帛と関係がある

ということになる。正解は亀型の硯で、水器という回答では弱いけれども、糸帛と関係があるということで字を書くのに関係する水器=硯としてもらえたんじゃないだろうか。晴光の回答をもう少し詳しく解説してみると、

  • 糸帛ヲ以テ緒ト為ス。
    • 陽の日なので干上神に手掛かりがあり、それは太衝(卯)なので木行、なので糸帛と関係がある。
  • 印鑑ニ非ズ。
    • 三伝が太乙-河魁-太衝(巳戌卯)と揃っていると鋳印格で印鑑となるけど、三伝に卯がないので鋳印格ではない。つまり印鑑ではない。
  • 光色有ル水器。
    • 発用初伝に六合が乗じているので、光沢があるものである。
    • 発用初伝の河魁(戌)は容器であり、末伝の神后は水行なので水器である。
  • 其ノ像ハ亀甲ニ類ス。
    虫三百六十、霊亀ヲ之ノ長ト為シ北方ニ在ル。終ニ神后ヲ得ル。
    • 末伝の神后は子なので北方を表している。北方の神は玄武であり亀の形と推測できる。末伝の天将騰蛇も虫類であることを補強している。

という感じだろうか。

院主催の射覆大会で一人当たりの栄誉に浴したわけで、晴光も鼻高くしたと思う。

*1:この呼び名は死後に決まったものなので、御存命のその当時なんと呼ばれていたのかは知らない。

*2:多分、“はれみつ”と読むのだろう。

*3:多分、晴光もかなり攻めたんじゃないだろうか。