天の数、地の数、人の数

西遊記水滸伝平妖伝の3つに共通して表れる数が2つある。天罡数と地煞数である。

天罡数の値は36、地煞数の値は72であることはよく知られていると思うが、この2つの数がどこから来たかという説明はそんなに多くない。ただ、平妖伝によると、符呪に関わりのある数ではないかと推測できる。平妖伝では符呪の法に、正法である天罡の法と邪法である地煞の法の2つがあることになっている。天罡の法には36の術が、地煞の法には72の術があり、邪法は正法に勝てない。また天罡の法には「五雷天心法」という別名があり、この名前は西遊記にも、天をも動かす正法の名前として出てくる。*1

さて天罡数の36は何に起源を持つかということに話を戻すと、天に関わりのある数なので、周天の角度360度に起源がありそうな気がする。しかし中国天文学では、太陽は1日に付き1度移動することが基本なので、周天の度数は365.2422度という切りの悪い数になっている。5.2422度を無視して天の数を36とするのは、中国には無かったのではないだろうか。

となると思いつくのは、12と9の最小公倍数としての36である。12は古くは1年が12ヶ月であることから、天の数とされていた。*2十二支の周期に対して紫白星の周期を合わせていくと36の周期が得られる。この推測が正しければ、地煞の72も紫白星やそれに近いところの周期であるだろう。

過去の日記で書いたように、奇門遁甲の時盤局数は、八方位に3つの節気があり各節気には三元があることから、八方位全体で72の局があることになっている。天円地方といって、天は丸く地は四角いというのがもっとも原始的な天地の認識であった*3わけだが、四方の発展形の八方位に9の周期を合わせた72は、まさしく地の数と言えるだろう。

そして、天を戴き地を履む存在としての人間に、天の数と地の数を合わせた108が与えられているのは、ある意味当然のことではないだろうか。

さて話は変わるが、中国では歳差運動を天文学に取り込むのが相当に遅れた*4が、この歳差運動の周期は、一部では25,920年とされている。*5西洋では、この値は432×60と認識されていたという話があり、秘教の伝承に432が時々出てくるらしい。*6さて、この数は色々な分解の方法がある。例えば、108×240、36×72×10とかである。中国でも歳差運動の周期として25,920年が受け入れられていたとしたら、方術に関わる人間にとって、天罡数と地煞数の値について更に確信を深めることになっただろう。

*1:もっとも西遊記の天罡数と地煞数は、変化の術についての数で、天罡と地殺自体には優劣がない。孫悟空は「私は欲張りなので数が多いほうにします」といって、地煞の術を学んでいる。

*2:天干地支という言い方は、子平が成立して以降のものだろう。5や10は人に基づく数である。

*3:どちらも無限の認識の仕方の表現と考えられる。天についてはその等方性が、地については自分を中心にした前後左右が表現されている。

*4:しかし歳差運動の存在自体はかなり昔から知られていた。[2017/12/16追記]

*5:こんな長周期の運動について、有効数字が4桁あるか?というと、かなり疑問だが。

*6:講談社現代新書の「失われた文明(購入)」(ISBN:4061156748)とか参照のこと。ただしこの本は絶版に近い状態らしい。