惑星の定義

これまで漠然と使用されていた惑星をちゃんと定義しようということで、国際天文学連合IAU)の総会で議論が行われていたが、25日未明にやっと決着がついた。議論の途中での報道の二転三転ぶりは筒井康隆の旧作「ビタミン*1」を彷彿とさせる面白さだったが、結局のところエッジワース=カイパー・ベルトの天体を観測し続けてきた天文学者にとっては、しごくもっともな決着だったのではないだろうか。

Wikipediaエッジワース=カイパー・ベルトをひくと1992年に初めてエッジワース=カイパー・ベルト天体が確認され、現在では1000を超える数のエッジワース=カイパー・ベルト天体の存在が確認されている。こういった観測の過程で、冥王星もエッジワース=カイパー・ベルト天体の一つではないかという考えが支配的になってきたようだ。そして冥王星をエッジワース=カイパー・ベルト天体として扱うべきだという考えの基になっているのが、

  • 冥王星の軌道は一部、海王星の起動の内側に入り込むことから明らかなように、他の惑星と比べて真円からのズレが大きい。
  • 質量がかなり小さい。

の2点だった。これは冥王星が元々はエッジワース=カイパー・ベルト天体であり、海王星の重力の影響を受けて、現在の軌道に落ち着いたと考えれば納得がいく。

従ってこれまでのエッジワース=カイパー・ベルト天体の観測結果を踏まえて惑星の定義付けをしようとすれば、冥王星が惑星に分類されなくなる可能性は非常に高いものだった。しかし国際天文学連合最初に出してきた提案では、

(1)惑星とは、(a)十分な質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡(ほとんど球状)の形を持ち、(b)恒星の周りを回る天体で、恒星でも、また衛星でもないものとする。

(2)黄道面上で、ほぼ円軌道を持つ、1900年以前に発見された8つのClassical Planetsと、それ以外の太陽系の天体を区別する。後者は、すべて水星より小さい。また、セレスは上記(1)の定義から惑星であるが、歴史的理由により、他のClassical Planetsと区別するため、Dwarf Planetと呼ぶことを推奨する。

(3)冥王星や、最近発見された1つまたは複数のトランス・ネプチュニアン天体は、上記(1)の定義から、惑星である。Classical Planetsと対比して、これらは典型的に大きく傾いた軌道傾斜と歪んだ楕円軌道を持ち、軌道周期は200年を超えている。われわれは、冥王星が典型例となるこれらの天体群を、新しいカテゴリーとして、Plutonsと呼ぶ。

(4)太陽を回る他のすべての天体は、まとめてSmall Solar System Bodiesと呼ぶこととする。

となっていて(3)の項目で異論続出となったようだ。12日におよぶ侃々諤々の議論を経て、遂に冥王星矮惑星であって、太陽系海王星外天体の新しい種族の典型例として認識する、という決議に至った。国立天文台 アストロ・トピックス(233)によると決議文は以下の通り。

決議
 国際天文学連合はここに、我々の太陽系に属する惑星及びその他の天体に対して、衛星を除き、以下の3つの明確な種別を定義する:

(1) 太陽系の惑星(注1)とは、(a) 太陽の周りを回り、(b)十分大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し、 (c) その軌道の近くでは他の天体を掃き散らしてしまいそれだけが際だって目立つようになった天体である。

(2) 太陽系のdwarf planetとは、(a) 太陽の周りを回り、(b)十分大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し(注2)、(c) その軌道の近くで他の天体を掃き散らしていない天体であり、(d)衛星でない天体である。

(3) 太陽の周りを公転する、衛星を除く、上記以外の他のすべての天体(注3)は、Small Solar System Bodiesと総称する。

注1:惑星とは、水星、金星、地球、火星、木星土星天王星海王星の8つである。
注2:基準ぎりぎりの所にある天体をdwarf planetとするか他の種別にするかを決めるIAUの手続きが、今後、制定されることになる。
注3:これらの天体は、小惑星、ほとんどのトランス・ネプチュニアン天体(訳注1)、彗星、他の小天体を含む

冥王星についての決議
 国際天文学連合はさらに以下の決議をする:
  冥王星は上記の定義によってdwarf planetであり、トランス・ネプチュニアン天体の新しい種族の典型例として認識する。

訳注1:トランス・ネプチュニアン天体は、海王星より遠方にあって太陽の周りを回る天体で、今まで国立天文台ではエッジワース・カイパーベルト天体と表記してきました。

ということで、筆者はエッジワース=カイパー・ベルト天体の観測結果からは妥当な決議に至ったのではないかと考えている。

ただ占星術的には、あまり影響はないだろう。冥王星から天蝎宮ルーラーシップを剥奪する勇気のある占星術師がモダンな占星術の世界で主流になるとは思えないし、冥王星ルーラーシップを認めない占星術師は、たいていが古典派でそもそもトランス・サタニアンなど気にしないからだ。