その男、狡猾につき

知人が推理小説を書いた

知人はヤングジャンプで連載されている『ジャンケットバンク』が好きだ。ことに登場人物の1人である村雨(むらさめ)礼二(れいじ)が大好きで、とうとう村雨(むらさめ)礼二(れいじ)を主人公にした推理小説を書いてしまった。そのジャンケットバンク本格ミステリ『その男、狡猾につき』が BOOTH で販売されている。これには短編が2作収録されている。

『ジャンケットバンク』を知らない人のために少しだけ説明をしておくと、壊れた人間が作ったイカレたゲームで壊れた人間が身体機能ないし命をかけて戦う話だ。主人公の真経津(まふつ)(しん)*1は、説明されたゲームのルールをメタに問い直して真の勝利とは何かに辿り着き、相手の特性に合わせながら文字通り身を削って相手の選択肢を奪う。そして勝つ。

知人が推す村雨(むらさめ)礼二(れいじ)は見る人だ。全てを正しく見る。ただ見たものを常に正しく理解できるわけではない。そこを突かれて真経津(まふつ)(しん)に1敗している。この正しく見るが常に正しく理解できるわけではないという特性は、京極夏彦が生み出した薔薇十字探偵榎木津(えのきづ)礼二郎(れいじろう)と共通している。バカ明るい榎木津(えのきづ)礼二郎(れいじろう)とは逆に村雨(むらさめ)礼二(れいじ)は陰惨な雰囲気をまとっていて陽と陰だ。しかしどちらも自分で選んだ職業をアイデンティティの核にしているし、すこぶる偉そうに振る舞うという共通点がある。知人は榎木津(えのきづ)礼二郎(れいじろう)も推している。*2

『その男、狡猾につき』で村雨(むらさめ)礼二(れいじ)は見たものを正しく理解するべく思考し行動する。そして正しく理解した時、物語の序盤で見せられた事件の構図は、図と地が逆転し全く異なった様相を見せる。そして事件は解決する。よく書けていると思う。このブログの読者にも一読を勧めたい。

なお登場人物のキャラクターはジャンケットバンクそのままなので、『ジャンケットバンク』を読んでから本書を読んだ方がより楽しめるだろう。

*1:真の主人公は真経津(まふつ)(しん)担当の銀行員、御手洗(みたらい)(あきら)なのかもしれないけど。

*2:もしもだが、ジャンケットバンクの御手洗が島田荘司が生み出した名探偵、御手洗潔から採られたのだとすると、村雨(むらさめ)礼二(れいじ)榎木津(えのきづ)礼二郎(れいじろう)をベースに生み出されたのかもしれない。