以前、アップしたテトラビブロスというエントリで、矢野道雄先生の、
という仮説を紹介し、アレクサンドリアの図書館に仏典があったことを疑う理由がないのなら、逆もしかりでテトラ・ビブロスがマウリヤ朝の図書館にあっても不思議ではないということになる、という話をした。
ライデン大学のJeffrey Kotykさんが駒澤大学で出した『漢字圏の文学における西方占星術の要素:東西文化交流における仏教の役割』という論文では、インド経由で中国に伝わったホロスコープ占星術のテキストとして、
- 『都利聿斯經』
- 『聿斯四門經』
- 『聿斯歌』
- 『聿斯經訣』
- 『聿斯隠經』
- 『安修睦都利聿斯訣』
- 『聿斯妙利要旨』
等が挙げられている。どれも都利聿斯やその下半分の聿斯が題名に入っており、これらは仏典ではないそうだ。
テトラ・ビブロスの著者である、クラウディオス・プトレマイオスは英語では“Ptolemy”と呼ばれているのだが、語頭の“P”は発音されなくて“トレミー”で通っている。どうも印欧語では語頭の“p”や“h”は発音されなくなる傾向があるようで、
「フランスでは最初のエッチは声を出さない。」
で始まる小話があったりする*1。
中国に入った段階では既に、プトレマイオスのプが無くなっていたとすると、「都利聿斯」が“トレマイオス”ないし“トレミー”を音写したものである可能性は高いと考えられる。
そういえば、テトラ・ビブロスの第三の書と第四の書では個人のホロスコープ占星術が解説されている*2。ところが「占い死ね死ね♡」ブログ溝鼠NEOを書いている酒井日香さんが西洋占星術を教わったM先生が、テトラ・ビブロスを翻訳していたそうなのだが、
しかし、この「テトラビブロス」。M先生が翻訳したノートを見せてもらったことがありますが、内容はほぼ「お天気占い」であります。気象学に「観天望気(かんてんぼうげ)」という言葉があります。文字通り、空を観測して未来の天候を知る、という意味なのですが、このテトラビブロスもおおむねそんな感じ。月の影に木星が入ると王様が死ぬとか、日の出の頃の太陽に二重の輪がかかると洪水がやってくるとか、金星と火星が接近して木星が逆行すると、国中の物価が乱高下するとか。
なのだそうだ*3。大丈夫かM先生。