作中講義

密室と人体構造

エッセイとか技術解説ではない純然たるフィクションの中で、登場人物の一人が他の登場人物に講義を始めることがある。これは他の登場人物への講義だけではなくて読者への講義になっていたりする。推理小説の世界では『フェル博士の密室講義』が一番有名だろう。ディクスン・カーの傑作『三つの柩』*1の中で、探偵役のフェル博士が「自分たちが小説の中の人物である」と明言した上で密室トリックの分類を行っている。このカーによる密室トリックの分類は有名で、江戸川乱歩のミステリーエッセイである『幻影城』でも言及されている*2

マンガの世界でも、山本貴嗣作『Mr. ボーイ』の2巻の中で男女の人体構造の違いが解説されている。『Mr. ボーイ』は警官である坊-翔太郎がその容姿と小柄な体格を使って美女や少年に変装して潜入捜査を行うアクションマンガだ。その中で、女装した自分と親友で同僚の西条との仲を疑う西条の恋人に、自分が男であることを説明するという形で男女のヘソの高さの違いを説明している。山本貴嗣の意図は分からないけれども、これは後輩のマンガ家への男女の裸体の書き方の講義になっている。Kindle版もあって私も購入したけれども、マンガ図書館Zなら無料で読むこともできる*3。男女の裸体を書く人は読んでおいて損は無いと思う。

この男女でのヘソの高さの違いについては、VTuber戸定梨香のアバターのヘソの高さを問題にした人がいたりする。

宇野ゆうかの備忘録-萌えVTuber戸定梨香が炎上した件を見て、「へそと腰骨の位置って難しいよね」と思った。

私は『Mr. ボーイ』を読んでいたので、

ヘソの位置が高いから、このアバターは女装男子なのだろう。

とブックマーク・コメントをつけた。このエントリは写真付で男女のヘソの高さが解説されている。骨盤の構造に由来して、男は女よりもヘソの位置が高くなるそうだ。

*1:日本で翻訳されてるカーの作品は傑作しかないくらいなものだけど。

*2:密室ものに挑戦したことのあるミステリー作家にとって密室トリックの分類は魅力的みたいだ。もっとも、天城一の分類を越えるものはそうそう出ないだろう。天城一関数解析が専門の数学者中村正弘のペンネームの一つ。

*3:マンガ図書館Z『Mr. ボーイ 2』