文化革命の構造

トーマス・クーンと宮本悦也

トーマス・クーンが“The Structure of Scientific Revolutions”を上梓したのが1962年で、その邦訳である『科学革命の構造』がみすずから出たのが1971年のことだ。それに遅れること1年、宮本悦也が『流行学―「文化」にも法則がある (1972年) -』を世に問うている。

『科学革命の構造』は科学の発展について、『流行学』は服飾の流行を中心にして、文化現象の背後にはパラダイムの転換があるということを具体例をあげながら論じている。『科学革命の構造』は『科学の流行学』、『流行学』は『文化革命の構造』とタイトルを付け替えることができるだろう。2冊とも同じ時期*1に私の思考の骨格を作ってくれた師から紹介された*2

『流行学』では服飾の流行をメインに扱っている。流行と一口にいっても、一時流行するけれども歴史的には影響を残さないものと、流行した結果、次世代の服飾の規範に変化するものは別物として扱われている。『流行学』では前者をファド、後者をクレイズとよんでいる。服飾の流行では、規範の存在→クレイズの出現→クレイズの新たな規範化、という構造が背後にある。ただしその流行した服飾のデザインは流行ってみないと分からない。それでも『流行学』を使えばクレイズかファドかを弁別できるというわけだ。

『流行学』で面白かったのが、新旧の規範の対立が別の対立構造で置き換えられると規範が固定化されてしまうという現象だ。宮本悦也は江戸期の江戸と上方の文化対立によって日本国内では服飾の規範が固定化されてしまったとしている。明治維新を経て東京一極集中が起こっている現在では、江戸対上方の対立構造は解消されてしまったと考えて良いだろう。であるなら流行現象は新旧の規範の対立に戻っているのだろう。

大きな話をすると、東西冷戦の時代は東西対立の構造が新旧の規範の対立にとって代わっていたわけで、現在のUSA一強の構造となった以上、新旧の規範の対立にもどったということになる。英国一強がUSA一強に代わったように別の何かがUSAにとって代わることになるだろう。それが今の中国というのは避けて欲しいよね。そうならないようにしようと思ったら、意図的にロシアを強化して東西対立の構造に戻すくらいのことは必要かもしれない。

*1:大学進学で大阪に出て間もない頃だ。

*2:ベルトランの逆説も同じ師から教えてもらった。