晴明ってヘボだった説

20091028123628
現代・陰陽師入門

10月10日に高橋圭也さんの講義を聞きに行ったわけだけど、その講義の中で「以前の著書で晴明のことをボロカスに書いた。」という話がでた。そこで早速、「現代・陰陽師入門」をAmazonで取り寄せた。で、ワクテカで読んでみたのだけど、高橋さんの口調よりはずいぶんとマイルドな筆致で、少々拍子抜けした。高橋さんの晴明に対する基本的な見解は、晴明の伝承は虚像であって、それは晴明の子孫が賀茂氏に対抗するために作り上げたものだ、というものだ。

小坂眞二先生はもっと直接的に「晴明って自ら認めるヘボだったんじゃないの」という感じのことを「安倍晴明撰『占事略決』と陰陽道」に書かれていた。小坂先生の論拠は、

  • 安倍家にあった資料は賀茂家にあった資料よりも劣っていたはず。
  • 晴明自身がその著書「占事略决」で自分がヘボだと認めている。

というものである。

確かに尊経閣文庫本には特に章立てはしていないけれども、以下の後書きがある。

夫占事之趣、応窮精徴、失之毫毛実差千里。
晴明楓葉枝疎雖、挙核実、於老後吉凶道異。
難逐聖跡於将来、唯挙一端之詞、粗抽六壬之意而已。
(句読点は引用者が付加した。)

ざっと読み下すと、

夫レ占事之趣、応窮ニシテ精徴、毫毛之失モ実差千里トナル。
晴明ノ楓葉枝ハ疎ト雖エドモ、核実ヲ挙ゲ、老後ノ吉凶ノ道ヲ異ニセン。
将来ニ於イテモ聖跡ヲ逐ウハ難シク、唯ダ一端之詞ヲ挙ゲ、粗ク六壬之意ヲ抽スル而已。

ちょっと超訳気味だけど文意はこんなところだと思う。

占いをするということは、
どこまで詳しく読み解いたとしてもそれで完全ということはなく、
毛一筋の間違いが現実には千里の差となってしまいます。
私、晴明の術はまだ粗雑ではありますが、
その核心を示しておくことで老後の吉凶を変えてみようと思います。
聖人の歩いた後を追うのは将来にわたっても難しく、
ただ六壬の意を粗らいながらも取り上げ簡潔な言葉とするのみです。

つまり小坂先生は『晴明楓葉枝疎』という記述から『晴明は自ら認めるヘボだった』と解されているわけだ。しかしながら私は『失之毫毛実差千里』の記述から、何度も外しながらそれでも諦めずに術を磨いてきた晴明を感じる。そして晴明は六壬の『核実』を得て、略决を書いたのだと。

完全に余談だが、『現代・陰陽師入門』のカバー絵は天野喜孝さんの手になる華麗な陰陽師像だが、仔細にみると口髭や顎鬚からモデルが高橋圭也さんだと推測できる。もっとも高橋さん御自身の風貌はカバー絵と違って随分親しみ易い印象だ。ただ高橋さん自身、「最近はずいぶん丸くなった。ちょっと前まではかなりトンガっていた。」と述懐されているので、『現代・陰陽師入門』が出版された当時はカバー絵みたいな感じだったのかもしれない。