兌と説

易経彖伝では15の卦の彖で「説」字が使用されている。履、兌、[目癸]、帰妹、節、中孚、臨の下卦に兌を含む卦と上卦に兌を含む夬、革、随、困、大過、咸、萃、および上下をひっくり返すと損になって下卦に兌を含む益である。

ところで「説」は「よろこぶ」と訓じられることが多く、それは兌が説の初文?原型?であることが関係しているのだろう。つまり「兌」が本来は悦びを表していて、それを言上げすることが「説」の本々の意味であったのだろう。

あらたまって言うほどのことではないが、兌の彖に「兌、説也」とあるので易経では「説」=「兌」となる。彖伝で「説」字が出ている箇所を全て見てみた。

履:説而應乎乾
隨:動而説
臨:説而順
大過:巽而説
咸:止而説
「目癸」:説而麗乎明
益:民説无疆
夬:健而説
萃:順以説
困:險以説
革:文明以説
歸妹:説以動
兌:説也。剛中而柔外、説以利貞、是以順乎天而應乎人説以先民、民忘其勞。説以犯難民忘其死。説之大、民勸矣哉
節:説以行險
中孚:説而巽

こうして見てみると「説」を「兌」に変えたほうがわかりやすいものがほとんどだということがわかる。「説」を「兌」に読み替えると履では「兌が乾に応じている」になる。つまり天沢履という卦の構成を述べているわけだ。

随は「動」が震であると考えれば、震と兌という随卦の構成になる。この「動」を「震」に読み替えることの妥当性は、上卦と下卦を入れ替えた帰妹卦の「説以動」で裏付けられている。臨卦では順が坤に対応しているとすれば、兌と坤という臨卦の構成になる。この順=坤の読み替えは、萃卦の「順以説」から妥当な読み替えと考えて良いだろう。大過卦は巽と兌そのものになる。

「説」をそのまま「よろこ(ぶ)」と訓じる「説」字のままにしておいた方が良さそうなのは益卦と兌卦のみで、他は大成卦の構成を述べたものと考えた方が良さそうだ。なおこの考え方で行くと「險」は坎で「順」は坤に読み替えることが可能になる。ということで師卦の彖を見ると「行險而順」とある。つまり彖伝ではどこかで大成卦の構成が述べられていると考えて良いだろう。このことは大成卦から八卦が生まれた後に彖伝が成立したものだということでもある。