中宮の寄宮

奇門遁甲では中宮は坤宮に寄宮させることが基本になっている*1。その原理は易経の説卦伝にあるかもしれない。易経説卦伝で八卦と方位の対応付けについて書かれているのは以下である。句読点は筆者が適宜付加した。ざっとした読み下しをつけておく。

帝出乎震、齊乎巽、相見乎離、致役乎坤、説言乎兌、戰乎乾、勞乎坎、成言乎艮。

萬物出乎震、震東方也。

齊乎巽、巽東南也。齊也者言萬物之潔齊也。

離也者明也。萬物皆相見。南方之卦也。聖人南面而聽天下嚮明治。葢取諸此也。

坤也者地也。萬物皆致養焉。故曰致役乎坤。

兌、正秋也。萬物之所説也。故曰説言乎兌。

戰乎乾、乾西北之卦也。言陰陽相薄也。

坎者水也。正北方之卦也。勞卦也。萬物之所歸也、故曰勞乎坎。

艮、東北之卦也。萬物之所成終而所成始也。故曰成言乎艮。

帝出ずるは震、齊は巽、相見するは離、致役は坤、説言は兌、戰は乾、勞は坎、成言は艮。

萬物の出ずるは震、震は東方也り。

齊は巽、巽は東南也り。齊也る者は萬物之潔齊を言う也り。

離也る者は明也り。萬物皆相見る。南方之卦也り。聖人は南面して而して天下の嚮を聽き、明らかに治むる。葢し諸此を取る也り。

坤也る者は地也り。萬物皆養を致す。故に曰く致役は坤。

兌、正秋也り。萬物之説ぶ所也り。故に曰く、説言は兌。

戰は乾、乾は西北之卦也り。陰陽相薄きを言う也り。

坎者水也り。正北方之卦也り。勞卦也り。萬物之歸する也り、故に曰く勞は坎。

艮、東北之卦也り。萬物之成終する所なり、而して成始する所也り。故に曰く成言は艮。

ここで八卦と方位の対応付けで明示されているのが、震=東、巽=東南、離=南、兌=正秋=西、乾=北西、坎=北、艮=北東、の対応付けである。何故か坤については方位との対応付けが明示されていない。もっとも順序からいって南西と対応付けられるはずということはわかる。

しかし、わざわざ四大に中央を付加して不安定化させた五行を発明した中国人が、説卦伝において中宮を忘れていたとは考えにくい。つまり坤卦には南西だけでなく中宮もまた対応付けられていたと考えることは充分に可能だろう。つまり坤=南西&中宮となる。

なお説卦伝における八卦と方位の対応関係は後天八卦とよばれているが、この後天八卦が易における最も古い対応関係だろう。易には周易、帰蔵易、連山易の三易があったとされ、三易それぞれに先天八卦方位があって羅盤にその痕跡を留めている。このことからすると後天八卦方位成立後に三易の全てが成立したと考えられる。帰蔵易、連山易は非常に古いとされているが、存外、周易と同時代のものだったりするかもしれない。

*1:時代を経て、陽遁時は艮宮、陰遁時は坤宮といった説も出てくる。