量子力学が嫌いだったアインシュタイン
アインシュタインはノーベル賞を受賞した光電効果*1の解釈によって、光の持つエネルギーが連続量ではなくて1個1個数えられる離散的なものであることをしめした。この研究はプランクの黒体輻射の研究と合わせて量子力学の始まりとなったけれども、量子力学の根底に確率があって全てが確定してるわけではないことからアインシュタインは量子力学が嫌いだった。
それでアインシュタインは色々と量子力学にケチをつけている*2。そのアインシュタインの最後のケチが、『アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックス』だった。アインシュタインらの主張は、そのものでは無いけれども大まかにはこんな感じだ。
- 量子もつれにある2つの粒子を考える。
- その2つの粒子を互いに逆方向に飛ばす。
- その2つの粒子の間の距離が充分な所で、一方の粒子のスピンを測定する。
- 測定した粒子のスピンが確定すれば、他方の粒子のスピンも同時に確定する。
- 量子力学が言うように測定するまで粒子のスピンが確定しないなら、元々の2つの粒子は超光速で通信を行ったことになる。
- 納得できん。
これが切っ掛けになって、全ての情報の伝達が光速を越えることがないという『局所性』、全ての物理量は測定する前から確定しているという『実在性』の両方を仮定した時にどうなるかを考えたのがジョン・スチュワート・ベルで、ベルは局所実在性の仮定のもとで成立する『ベルの不等式』を導出した。このベルの不等式の別の表現にCHSH不等式がある*3。
2022年のノーベル物理学賞は、このCHSH不等式が成立しないことを最初に実験でしめした、Alain Aspect、Philippe Grangier、Gérard Roger に贈られた。この巧妙な実験の詳細は“Experimental Realization of Einstein-Podolsky-Rosen-Bohm Gedankenexperiment: A New Violation of Bell's Inequalities”と題して Physical Review Letters に投稿されて受理された。1982年のことだ。
これによって局所性か実在性の少なくともどちらか一方が成立しないことがしめされた。
ところで局所性は、原因と結果の順序が保たれているという因果律でもある。今の所、因果律が破れていなさそうなので、実在性が疑わしいことになる。
なお局所性が保たれているということについては、さらに強い理由があるみたいだ。
つまりCHSH不等式の破れを実在論的に解釈するときには、非局所性だけでなく、実験者の選択の意志を2つのスピンが事前に読み取って振る舞いを変えるなどの、非常に変な要請も加える必要があります。
— Masahiro Hotta (@hottaqu) September 13, 2022
では実在性が怪しいということになった時に、量子もつれにある2つの粒子が超光速通信を行っているのかというとそうではない。これについては田崎先生が量子もつれを使った超光速通信ができないという解説の動画をあげられている。
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