稲妻、申、電、神

稲妻の象形文字

『申』字は稲妻の象形文字春秋時代までは書体が安定しているけれども、戦国時代から変化を始めて今の『申』字となって行く。図は申-Wiktionaryから拝借した。

物理的には稲妻は放電現象になる。雲の中で摩擦による静電気が発生し、それが雲の中に蓄えられて大気が静電気に耐えられなくなって絶縁破壊が起こることで稲妻が発生すると考えられている。古代人にとって稲妻は、光るものであり、伸びるものであり、神の顕現でもあった。なので申字は電、伸、神等を兼ねていたけれども、字義の多重性が限界を越えたのだろう、偏や冠を加えて限定した字義を持つ、『電』、『伸』、『神』などが造字されることになる。

五行論としては放電現象を含む電気現象は金行に配当されると考えている*1

申が電の元になった文字である以上、日本の『電』よりは簡体字の『电』の方が本来の字義を保っているのではないだろうか。簡体字をバカにする人もいるけれども、日本の漢字だって割と好い加減な所があるのは覚えておいて損はないだろう。

この申がどういう経緯で十二支に組み込まれて猴*2という命獣が割り当てられたのかは、遥か遠く所忘却の彼方に行ってしまった。

ところで、神代文字の1つである阿伎留文字には簡体字の『电』みたいな文字がある。

画像がかすれて判別がし難いけれども、最初の画像の小篆のような矢羽根みたいな上部から出た尻尾が『电』のように跳ねている。
この文字は五十音の『サ』で使用されている。(サル)の“サ”だ。

神代文字が日本固有の文字ということはあり得ないけれども、古代の文字の書体を保存しそれを使うことを必要とした人達がいたという可能性は捨てて良いものではないだろう。
原田実著『図説神代文字入門』では、こういったことを踏まえてだろうか、神代文字に古代の文字が紛れ込んでいる可能性を捨てていない。

なお江戸時代に袋中上人が沖縄で神代文字を採集して『琉球神道記』に記録したのは1605年であり*3、一方、中国で考古学者の王懿栄が文字が刻まれている甲骨を価値のある骨董と見なして王襄と共に大量に収集し始めたのは1899年なので、古代の書体を保持していたグループは甲骨文字の発見以前から活動していた可能性が高い。

*1:陰陽というか、易からはまた別の観点があるだろう。

*2:中国では猿と猴を明確に区別している。確か猿は尾が長く猴は尾が短いという区別があったと記憶している。

*3:十二支とされている12文字の最初の3文字は、甲乙丙の甲骨文の近い書体となっている。