二つほど

天城一の密室犯罪学教程』読了

天城一の密室犯罪学教程』を読了した。2020年に宝島社文庫から出たのだけれど、どうも既に絶版の感じだ。著者の天城(あまぎ)(はじめ)こと数学者で関数解析を専門にしていた中村正弘先生は、面識はないままだったけれども長らく1ホップの人的距離にいた方*1だった。

この『密室犯罪学教程』は天城一による密室トリック分類が中心にあり、それを読者が理解しやすいように編者の 日下三蔵によって3部構成となっている*2。PART 1は密室トリック分類に合わせた短編、PART 2が密室トリック分類で数学者による分類らしく記号が使われているので取っ付き難い人もいると思う。そして、PART3がそれらを踏まえた上での実作短編集となっている。

天城一の文章はチェスタトンのように鋭く、訳本で読むチェスタトンと比べると圧倒的に読みにくい。例えばデビュー作で『13の密室』にも収録されている『不思議の国の犯罪』で、唐突に「摩耶に言わせれば……」で始まる文章が出てくる。私にはこの『摩耶』が人名*3と理解するのに、幾ばくかの逡巡が必要だった。しかし再読に耐える文章で読み返す度に理解が深まる。数学者の書いた固い文章に馴れることができたら、非常に素晴らしいトリック分類になっていることが分かると思う。

なお逆転裁判ファンに一読を勧める。「えっ?これってアレ?」となるのが一、二度はあるだろう。

陰陽師の日本史~近世篇

木下琢啓先生が福山リビング新聞社のリビングカルチャー倶楽部で開いている『陰陽師の日本史』講座の近世篇を受講してきた。土御門家がどのように戦国時代を福井の名田庄で耐えて江戸の頃に陰陽師の免状の発行権を握ることになったのかという話がメインだった。しかし私にとって興味深かったのが、宝暦改暦の段階で既にアダム・シャールが作った時憲暦のシステムについての情報が日本に入っていたということだった。

土御門泰福と仲が良かった渋皮春海*4による貞享改暦の後、土御門主導での改暦を目論んだけれども、この段階で明末に完成していた時憲暦も検討対象に入っていたのだそうな。なんか耶蘇が作った暦が気に入らなかったようだ。この時、ちゃんと検討していたら2033年問題は回避できていたんじゃないだろうか。

いや確かに時憲暦の置閏法は荒っぽいよ。でも暦が作成できない置閏法よりはマシじゃん。

*1:私に数学の面白さを教えてくれて、私の思考に背骨を通してくれた師匠が中村先生の研究室に在籍していた。

*2:実際には『密室作法』と『自作解説』の短い章があるので5部構成といえる。

*3:探偵役の摩耶正。

*4:安井算哲