仙人曰く

現代人が古人に勝る事

閲微草堂筆記の卷十五『 姑妄聴之一』にこんな話が収録されている。

徳春斎が扶乩をした。仙人が壇に降りてきたけど詩を作るわけでもなく、ただ劉仲甫と名乗った。
周囲にはこの名前に心当たりがある人間がいなかった。
しかし一人碁の名手がいて、「この名前は南宋の名人で棋訣四篇の著作がある」といった*1
そこで「やったら負ける」という仙人に頼み込んで碁を打ってもらう。
実際、仙人の半目負けで勝負がつくのだけど、対局者が「仙人様は謙遜してらっしゃる。後輩をはげまそうという思し召しですか。」といったのに対して、「後世の人間は何事も古人にはおよばないけど、暦学*2と碁については後世の人間の方が優れているのだよ。」と答えて、さらに以下のように続けた。
暦学は古人の到達点を出発点とするから、後世の暦学は過去を越えることができる。
碁についていうと、時代と共に人間が軽薄になって人情が薄くなっていくせいで、相手を倒そうとする術が双方で激突し奇計を編み出すことが続けられている。そのため古人が思いもつかなかった騙しの手口や、思いついてもやろうとしなかった作戦を平気で使ってくる。だから謀略は後世の方がより強力だ。碁も謀略の一つなので碁も後世の方が強い。
それを聞いた周りの人間は皆溜息をついた。

この暦学は今のサイエンス全般に当てはまるだろうけど、確かに暦学やその基礎の天文観測で顕著だろう。天体位置の推算式があれば、そこを出発点にして観測精度を高め、それが結果として推算式の精度を高めることになる。

*1:中国では囲碁を『棋』と呼ぶ。

*2:原文では『推歩』