リアルだとできない

マンガだとできるのに

私は確定診断こそないもののASD*1圏内で色々困難なことがある。

  • 気分の切り替えが上手く行かない。
  • 精妙な身体操作が困難*2
  • 聴力に問題がないのに聞き取りが上手く行かないことがある。
  • 顔を見て名前を呼ばないと顔と名前が一致しない。
  • 暗黙の了解をリアルタイムでは処理できない。
  • どうも聴覚過敏があるらしい。
  • どうも臭覚過敏もあるらしい。
  • 他人の表情や声音、身体の動きから思いや感情を察するのは困難。
  • etc.

で、「他人の表情や身体の動きから思いや感情を察するのは困難」で困ることは多い。
ところがリアルだとできなくてもマンガだと登場人物の表情から色々読み取ることができてしまうし、そういうフキダシに収まりきらない思いが積み重なった表情が好きだ。

例をあげてみよう。この絵は山本貴嗣著『紅壁虎ホンピーフー 2巻 Kindle版』の71頁から引用したもので、主人公のホン姐さんが副主人公の蛮童玉三郎とセックス後、先に1人で立ち去るシーンだ。蛮童から「死ぬなよ(ホン)──」と言われるのだけれども、ホン姐さんは黙ったまま複雑な表情をしている。

ホン姐さんは、紅壁虎(ホンピーフー)*3の名前で知られる殺し屋で房中術の達人。その術で男から生命エネルギーを吸い取って少なくとも100年は生きてそうな存在だ。副主人公の蛮童は、生命エネルギーが横溢過ぎて普通の女子では蛮童とのセックスに耐えられないという設定になっている。ホン姐さんは房中術の達人なので、そんな蛮童を充電器代りに使っている。第1話では瀕死の重傷を負ったホン姐さんが蛮童から精気を吸い取ってかなり回復していた。なお蛮童は警察官なので本来はホン姐さんを逮捕しないといけないのだけれども、その辺りは年の甲というやつでホン姐さんに翻弄されている。

以下は私の感覚なので、作者の山本貴嗣さんが実際にどれくらいの思いを重ねてホン姐さんの表情を描いたのかは分からないけれども、こういう前提から、ホン姐さんの複雑な表情からは、

  • 蛮童好きよ長生きしてね。
  • でもやっぱり私のほうが長生きしちゃうのかな。
  • 蛮童、私の銃口の前には立たないでね。
  • 命を助けてもらった借り、いや恩は忘れてないよ。

くらいの思いを読み取ることができる。

もう1つ、今私が一押しの百合マンガ『田所さん』から画像を引用してみる*4。これはスッタモンダの末に3位入賞を果たした田所さんが、恋人の二階堂さんに嬉しくて抱き付いたところで、二階堂さんが「え、1位で当然なのに?」と戸惑うところから始まって、すうっと目が優しくなって、「おめでとうございます」と田所さんを抱きしめるシーンだ。

優しくなって行く二階堂さんの目は、

そうだ、この人は素敵なマンガを描くためにたくさん努力する素敵な人だった。
こんな素敵な人を好きになることができて良かった。
この人を好きで良かった。
大好き。

くらいは語っているんじゃないだろうか。

こういう色々折り重なった思いを表情で表現して1コマの中に凝縮させる。そして解釈は読者に任せながらストーリーに深みを持たせていく。マンガの表現て素晴らしいものだと思う。

これがリアルな表情からでも色々読み取ることができたら、私の人生ももうちょっとイージーでなおかつ深みがあったのかもしれない。

*1:Autism Spectrum Disorder(自閉スペクトラム症

*2:悪筆はその表れの1つ

*3:壁虎は中国語でヤモリだそうだ。

*4:pixiv版の92話