江戸期の興味深い占術

陰陽道修験道を考える』を読む(その2)

現代思想から臨時増刊号として『総特集◎陰陽道・修験道を考える』を読み続けている*1。収録されている論文に、

マティアス・ハイエク「江戸時代の占書と陰陽道」pp. 136-150

がある。著者のマティアス・ハイエクさんは、江戸時代の占書は大きく『簠簋』と『八卦』に分類できるとしている。『簠簋』は『簠簋内伝*2』をベースとした占書で、暦による日取りや方位の吉凶が中心となっている。なので『簠簋』には個人差がない。一方、『八卦』は周易ではなくて*3、生年がメインの出生データを使用して個人差のある日取りや方位の吉凶を解説したものになっている。その中には、八宅の本命卦を使用した命占のようなものがあったらしい。該当箇所である138-139頁から引用する。

個人の年齢と性別から乾、兌、離、震、巽、坎、艮、坤の八卦とその変化を表し、一定の法則によって駆け巡る遊年、禍害、生家、絶対、天醫、遊魂、絶命、福徳、という「八文字」、
そして……,、
その個人がどれにあたるかを定め、そこからその人の一年の運勢、またはその人にとっての方位、日時の善悪を推定するための道具である。

中でも「当卦」というその年の卦と、他の卦の関係を一見で読み解くための九つの升目からなる八つの図版があり……

引用されている『八卦』の図版によると、九つの升目は後天八卦による九宮八卦で、中宮が離卦の場合、

中宮 西南 西 西北 東北 東南
当卦
遊年 遊魂 天医 絶命 絶対 禍害 生家 福徳

となっている。これは明らかに今の八宅とは異なっている。今の八宅ならこうなる*4

中宮 西南 西 西北 東北 東南
当卦
伏位 六煞 五鬼 絶命 延年 禍害 生気 天医

ということで、この『八卦』が八宅本命卦を使った命占とは考えにくいけれども八卦に絡んで『天医』という用語が出て来る以上、八宅と何か関りがあったと考えて良いだろう。そしてこの『当卦』に男女の別があったわけで、日本では本命卦に男女の別があるのを知らなかったわけではなく、知った上で男女の別の無い九星術を作りあげてきたということになる。

*1:Kindle版もある。

*2:三国相伝陰陽輨轄簠簋内伝金烏玉兎集

*3:断易でもない。

*4:ただなんとなくだけど、用語の変遷で説明できそうに思う。