陰陽師の里、名田庄

八朔祭

八朔祭、つまり8月1日*1に行われる御祭りのことで、太陰太陽暦だと収穫時期*2にあたるので、五穀豊饒のついでに家内安全などを祈願する御祭りだ。名田庄の天社神道では夏越しの祓いと一緒に行われる。今年は陰陽道研究家で天社神道の藤田庁長とも親しくされている木下先生の仲立ちで私も参列することができた。

11時から開始ということで前乗りして流星館で一泊した。新型コロナのせいで私の他には御夫婦が一組くらいな感じだった。夕食、朝食とも美味しかったので、機会があれば配偶者と泊りにきてみたいと思った。朝、まだ時間に余裕があったので、近くの暦会館に行ってみた。ちゃんとオープンしていたので見学することができた。暦会館というだけあって暦関係の展示で古暦や『めくら暦』の展示があり、江戸時代の暦の版木を再利用して作った煙草盆まであった。

古暦で珍しかったのが戦国時代の具注暦で、第一印象は「字が丁寧で綺麗」だ*3。この丁寧さは旧国宝茶坊主(@simadu1123)さんが出している「平成三十年具注暦」の書体や安倍泰統が筆写した占事略决の書体の丁寧さに通じるものがある。旧国宝茶坊主さんの具注暦の書体は『御堂関白記』の書体を使っているので、私は平安・鎌倉の貴族は丁寧な字を書くものだと思っていたけれども、木下先生によると違うらしい。あの書体は陰陽師の書体なのだそうだ。陰陽師のアルバイトの一つに具注暦の筆写があったそうで、安倍泰統も陰陽師ではなかったけれどもアルバイトに駆り出されたんじゃないだろうか。

暦の他には安倍家に係わる資料や模型の展示があった。朱筆で書かれた都状、安倍家が出していた免状など、そして渾天儀や漏刻の模型、実際に使われた香時計などだ。ちょっと驚いたのが漏刻の模型で、実際の大きさ、そして水の流れる速さに驚いた。漏刻という名前から水がポタポタと落ちて行くものと思っていたけど、実際にはサイフォンの管から結構な速度で水が流れて行く。この模型は生きている。そしてこれの管理は大変だろうと思った。陰陽寮での漏刻の管理は2交代制だったそうだけれども3交代でも良かったように感じた。

そして八朔祭だけれども。雲行きが怪しかったので本庁の屋内で行われた。式次第もらったけれども、祭式の具体的な内容については触れないでおく*4。今年は新型コロナの蔓延もあって特別に神道護摩も行われた。神道護摩は御経を唱えることがないので静かなものだったけれども、屋内で焚くにしては火の勢いが激しいものだった。

祓いのための人型はこんな感じ。4枚入ってた。禁無断転載です。
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木下先生の御蔭で藤田庁長に名刺を御渡しできたし、何より珍しいものを沢山みることができた。そして天壇を実際に見ることもできた。茅の輪もくぐってきた。名田庄での目的は達したので、一路、白山比咩神社を目指した。

*1:新暦で行われているのでアラビア数字を使っている。

*2:今年の2020年だと、9月17日が八月朔になる。

*3:並んで展示されている渋川春海の具注暦の書体と比べると丁寧さが判然としている。

*4:一部の人間からは天社神道の技術が鵜の目鷹の目で狙われているらしい。