妖術
北宋、仁宗の時代に貝州*1で王則が反乱を起こし、宣撫使の文彦博が指揮する官軍によって鎮圧される。この時、王則の側に複数の妖術使いがいたとされていて、王則の反乱とその鎮圧に題材を取った講談は『平妖伝』と呼ばれている*2。
『平妖伝*3』では、妖術のオリジンは天界の書庫にあった『如意冊*4』とされている。中国の文字とは異なる文字で書かれていたようだ。この如意冊は天界の書庫の管理者であった白猿神が師であった九天玄女娘娘*5との縁で封印を破ることに成功してしまい、自身の洞である白雲洞の壁に内容を彫り付けてしまう。それが切っ掛けとなって如意冊の法が人界に漏れてしまうことになる。
壁の文字その他を写し取ったのが蛋子和尚なのだが、知らない文字で書かれているので和尚は読むことができない。しかし老狐である聖姑姑はそれを読むことができ、蛋子和尚と聖姑姑のタッグが七十二の地煞小変法の妖術を完成させることになる。蛋子和尚による写し取りは、それが盗みであったために、邪法である妖術の地煞小変法を写し取ることはできたのだが、正法である三十六の天罡大変法を写し取ることには失敗している。このことが王則の反乱を鎮圧する際に大きな影響をもたらす。天罡大変法には五雷天心正法の別名がある。そうこれが『うしおととら』に出てくる青い目の鏢が使う『十五雷正法』の元ネタだ。
話はそれるけれども、蛋子和尚は名前の通りガチョウの卵から生まれた*6。中国では鳥の卵は蛋子とか蛋とよばれることが一般的で、蛋白質の蛋白は鳥の卵の白身を指している。なんでも単に『卵』と書くとキ〇玉を指すと聞いたこともある。
閑話休題、妖術にも『金剛邪禅法』という中二心をくすぐる別名がある。この名前は芥川龍之介の『邪宗門*7』にも出てくる。別名はかっこいいけど所詮は邪法の妖術なので正法には勝てない。邪宗門でもこの正法には勝てないという特性を使って、怪しげな摩利信乃法師が実は正法に仕えるものであることがしめされている。平妖伝では王則は反乱を起こした時にはそれなりの義の人であったのに、たちまち堕落してしまって配下の妖術使いに離反されてしまう。特に蛋子和尚は白猿神から諭されて天罡大変法の伝授を受けて貝州の鎮圧を手助けすることになる。
とまあ、平妖伝面白いです。読んで損はないです。中国古典文学大系に入ってたりもします。中国古典文学大系の平妖伝はこちら。
そういえば、どこかの流派には九天玄女娘娘から授けられた天書を保有しているという伝承があるそうだけど、案外、平妖伝が元ネタなんじゃないの。