龜卜についてダラダラと

大嘗祭絡みで

新帝即位にともなって大嘗祭が執り行われるわけだが、大嘗祭の神人供食で用いられる米の産地は亀卜で決められるのだそうだ*1NHKの『大嘗祭に使う米を選ぶ占い「亀卜」 道具の映像を公開』という記事で、亀卜で使用される亀の甲羅など道具の写真があげられていた。それに触発されて以下のtweetをした。

神祇官太政官と同格なので、太政官配下の中務省の下にある陰陽寮陰陽道から見ると3つ上のランクになる。亀卜はかっては、それくらい格式高い占いだったわけだ。

関東の鹿卜は現代では、御嶽神社で正月三日に行われる十穀の占いだけになっているが、かっては3社で鹿卜が行われていた。奥多摩阿伎留神社御嶽神社群馬県富岡市一之宮貫前神社がそれだ。阿伎留神社については以前鹿卜の調査に行ったことがあり『阿伎留神社で「神伝鹿卜秘事記」と神字和歌に出会う』というエントリをあげている。阿伎留神社では太陰太陽暦の十月亥月に鹿卜を行っていた。この亥月に亀卜を執り行って来年の五穀の収穫を占うというのは中国起源もしくは東アジアの伝統に則ったものと考えられる。前漢武帝の時代に、淮南王劉安が編纂させた『淮南子』の『時則訓』には以下の記述がある*2

孟冬之月、招搖指亥。
……
是月、命太祝、禱祀神位、占龜策審卦兆、以察吉凶。
(是月、太祝ニ命ジ神位ヲ禱祀セシメ、龜策ニヨリ占イ卦兆ヲ審ラカニシ、以ッテ吉凶ヲ察ス。)

亥月には亀卜で占っていたわけだ。

余談だけど、この辺りのことを教えてくれた玄珠さんは、亥月には筮竹、算木や八卦賽をヤロウ*3に埋めて、筮具の呪力を回復させるのだそうだ。

閑話休題、阿伎留神社に伝わる絵巻物である『年中十二祭神事絵巻』によると、焚火をしてその周囲に竿竹の先につけた鹿の肩甲骨*4を立てて並べて、焚火の輻射熱でヒビを入れて占ったようだ。鹿の肩甲骨1枚で一つの占いという肩甲骨を贅沢に使う占いとなってる。

ただ大嘗祭絡みの亀卜は、阿伎留神社に伝わった鹿卜とはヒビの入れ方が異なっているようだ。というのは亀卜の道具に『波波迦木(ははかぎ)』が含まれているからだ。波波迦木はウワミズザクラの小枝のことで、NHKの記事では『燃料』となっているけれども、材質が堅い*5という特性を考えると単なる燃料ではないだろう。つまりウワミズザクラの小枝の先端を燃やした後に炎を消して、燃えさしの火を亀の甲羅に直接に押し当ててヒビを入れたのだと考えられる*6。勿論、押し当てる場所にはマチガタが切ってある。

なおウワミズザクラには香りが強いという特性があり、洋の東西を問わず*7神事等で使用される植物は香りが重要となっている。

*1:候補地の中に故郷の愛媛県から久万高原町が入っている。

*2:原文は『中國哲學書電子化計劃』から拝借した。適宜、日本で通用している文字に置き換えている。

*3:蓍(メドキ)と同様にノコギリソウの一種でハーブティで使用されるので、乾燥したヤロウは簡単に入手できる。

*4:勿論、ヒビが入り易いように油抜きをし平に削った上で、ヒビの起点となるマチガタを掘ったものだ。

*5:植木ペディア記事による。

*6:材質が硬いことによる火持ちの好さが利用されている。

*7:例えば西洋のベルティンの祭りでは、香りの強い枝葉を燃やして、その煙を浴びる。