龜が出てくる爻辞

爻辞を読む

以前の『益の卦』というエントリで「亀が出てくる爻辞は3つしかない」と書いた。で、その爻辞をちゃんと見ることにした*1易経では亀をどのように扱っているかを知りたかったからだ。で、その全3箇所が以下、

頤 初九、舎爾靈龜。觀我朶頤凶。
損 六五、或益之十朋之龜弗克違。元吉。
益 六二、或益之十朋之龜弗克違。永貞吉。王用享于帝。吉。

例によって原文は雨粟荘さん易経からお借りした。今回は損の『六五』の後に読点を、益の『永貞吉』の前に句点を加えて損と益のバランスを取った。

山雷頤の『霊亀』、山沢損と風雷益の『十朋之亀』が易経に出てくる亀ということになる。『十朋之亀』について三浦國雄先生は、著書の『易経』で以下のような注釈を付けている。

○十朋之亀 「朋」は古代の貨幣単位。貝殻二枚(一説には五枚)分。それほど高価で卜占のよく当る霊亀。「或益之、十朋……」という句読も一解。

ということで『十朋之亀』も頤の『霊亀』と同じということになる。頤の霊亀については、

霊亀」は占い用の神聖な亀の甲

と説明がなされている。では霊亀の甲羅で亀卜をやっていたのかというと違うと思う。亀卜では亀の甲羅を加工した上で焼き鏝を当ててヒビをいれて、そのヒビの形で占いをする。つまり亀の甲羅は消耗品ということになる。ここでの霊亀は高価ということなので消耗品としてはちょっと、ね、ということで『卜』の元となった亀卜に使用されたものではないだろう。

では、どんな占い方をしたのかというと擲銭に使ったのではないだろうか。今でも亀の甲羅に銭3枚を入れて振って、その銭の裏表で陰陽静動を決めることが行われている。そういう使い方だったのではないだろうか。つまりこの爻辞が決められた頃には亀卜は過去のものとなっていて、亀の甲羅を使った擲銭による易を想定していた可能性がある。

この観点に立つと、頤、損、益の卦画は面白い形をしている。

陽の爻で陰の爻3爻以上を挟んだ形となっている。卦画の上でも擲銭に使う甲羅をイメージしていたのかもしれない。ま、こういうのは多分、車輪の再発明というヤツで誰かがどこかで既出なのを教えてくれるのではないだろうか*2。そして面白いことに小成八卦の離は亀の象を持つのに、大離とされている中孚は卦辞・爻辞とも亀と係わりが無い。

*1:前回は grep で“龜”を拾っただけなので爻辞を見たわけではなかった。

*2:そういえば筮前の審事の追求不足と占的の転移の区別を教えてくれると嬉しいと書いてからずいぶん経つよな。あのいきり立ったコメントの小岳さん、教えてくれないのだろうか。