貴人歌

巳 
 亥
辰 
 戌
卯 
 酉

貴人法の歌訣の中で最も古形なのは、以前の日記のコメント欄玄珠さんが書いてくれたものだけど、この貴人歌をめぐって古くから様々な議論が行われてきた。

甲戊庚牛羊、乙己鼠猴郷、丙丁猪鶏位、
壬癸蛇兎藏、六辛逢馬虎、此是貴人方

この歌訣では昼貴人と夜貴人がどちらなのか判然としないわけで、古い時代、例えば安部晴明の頃には、昼貴人と夜貴人の順序で並んでいるものとしている。そのため甲の日の昼貴人は丑になっている。しかし丑は夜の十二支なので、それが昼貴人てどうよ、という意見はかなり有力で、近代六壬では以下のように決めている。

  1. 甲戊庚牛羊なのだから、甲日の昼貴人は昼間の十二支の未、夜貴人は夜の十二支の丑とする。
  2. 日干の進行と共に昼貴人は順に進み、夜貴人は逆に進むとする。
  3. 貴人は陽の土を嫌うので辰と戌は跳ばす。
  4. 貴人は陽の土を嫌うので戊日も別扱いとし、甲日の衝を取る。

不思議なことに、昼夜をうるさく言わなければ『甲戊庚牛羊』が満たされてしまう。甲日、戊日は当然として、庚日は戊を跳ばすので甲乙丙丁己庚で6番目になるけれども、途中戌も跳ばしているので、甲日の衝が庚日の貴人になる。残った『乙己鼠猴郷、丙丁猪鶏位、壬癸蛇兎藏、六辛逢馬虎』も同じように上記のやり方で満たされる。

ところで甲戊庚の三干がそろうことを六壬では天三奇とよぶ。同じように乙丙丁が地三奇であり、辛壬癸が人三奇である。まあ大六壬では三伝の遁干に天三奇がそろったりすることはまずない。そのため金口訣六壬で三奇が注目されることになる。さて貴人歌の冒頭は『甲戊庚牛羊』であり、これが天三奇と関係しているのではないかと考えるのは、さほど不自然な推測ではないだろう。

そう考えると、貴人歌の『壬癸蛇兎藏、六辛逢馬虎』からは人三奇が出てくるし、『乙己鼠猴郷、丙丁猪鶏位』から地三奇が出てくる。それで以前、陳先生に「地三奇の乙は己で代用できるのではないですか?」と聞いてみたことがある。結果は「聞いたことがない」ではあったが。

そしてもう1点、歌訣に出てくる日干の順序がある。土圭が描く8の字の図において、甲が丑未の坤艮で、そこから反時計回りに、『乙己鼠猴郷』離坎、『丙丁猪鶏位』巽乾と進んでくる。そして次が、辛ではなく『壬癸蛇兎藏』が出てくる。これは巽の巳と乾の酉が丙丁とダブっているからとも考えられる。結果、『六辛逢馬虎』の震兌が最後で、土圭が描く8の字の図が埋まることになる。

こういうことを考えると、やはり土圭が描く8の字は貴人法と深く関わっているように思う。