常風



カムイ外伝(1)

白土三平が自分の忍者マンガのために作り出した忍術の一つに「春花の術」がある。これは微粉末にした薬物*1を気流に乗せて相手のところに送り込み、吸入させて相手をコントロール*2する術である。実は液体を霧状にした場合よりも微粉末の方が気管支の奥まで届くようで、喘息予防薬の一つであるフルタイドも乳糖の微粉末に、抗炎症の作用を持つステロイドをのせたものになっている。フルタイドが出てから喘息のコントロールがずいぶんやりやすくなった。もっとも白土忍者マンガが扱っている戦国〜江戸時代に、春花の術で必要とされるような微粉末を作る技術があったかどうかは疑問だ。

さて、カムイ外伝の第7話の「常風(とこかぜ)」は、この春花の術の極意が話の中心となっている。この回では、抜忍となったカムイの追跡者が、春花の術の使い手であり、追跡者はその奥義を極めている。そして肌で感じ取れるような明確な気流がない状態でも周囲の地形から、定常的に存在している微妙な気流を読み取る『気流読破の術』こそが、実は春花の術の極意であるということが冒頭でしめされる。そして地形から発生する定常的な気流が常風(とこかぜ)と呼ばれている。

さて地形から発生する定常的な気流=風と聞いて、この日記の読者ならすぐ風水という言葉の基になった、晋の郭璞の『葬書』の一節を思い出したのではないだろうか。

気乗風則散、界水則止。古人聚之使不散、行之使有止。故謂之風水。
気は風に乗れば則ち散り、水に界せられば則ち止る。古人はこれを聚めて散らせしめず、これを行かせて止るを有らしむ。故にこれを風水と謂う。

黒門さんに風水って何ですかと聞くと多分次のような答えが返ってくるだろう。

風水とは文字通り、風と水を読む術で、水は見えるけど、風は見えない。しかし風は地形に沿って吹くので、地形から風を読み取ることができる。

つまり春花の術の極意は風水の極意でもあるわけだ。

カムイ外伝では、常風が時刻によって変化することを察知しているカムイが、追跡者の春花の術を逆手にとって逆に追跡者を昏倒させてしまう。これもまた黒門さんの、

巒頭のない風水は存在しないけど、理気が巒頭に及ぼす影響を無視した風水もまた存在しない。巒頭と理気は一体のものとして扱わないといけない。

を思い出させて面白い

*1:多くの場合、麻酔薬。

*2:多くの場合、昏倒。