緒言

六壬神課(りくじんしんか)という占術は単に六壬とよばれることもありますが、2000年以上前の中国で生まれた非常に古い起源を持つ占術です。六壬神課の占術としての特徴は、日常の細々とした事柄の吉凶や、その吉凶がどのような状況のもとに発生するか、またそれが発生する時期はいつ頃かを具体的に占うことを得意としている所にあります。

六壬神課は日本では平安時代から鎌倉時代にかけて、陰陽師にとって必須の占術でした。平安時代陰陽師として名高い存在であった安倍晴明は、六壬の解説書である「占事略决」を子孫のために残しており、六壬の達者であったと推測できます。占事略决に残された六壬には、現代の六壬では失われてしまった技法が幾つも残されています。そのため現代の六壬研究者にとっても占事略决を研究することは、多くの有益な情報を得ることにつながります。

本書は最終的には六壬研究者の視点から占事略决の解説を行うことを目標にしていますが、本書で初めて六壬神課に触れる読者も対象にして、煩瑣ではあっても現代の六壬についてもそれなりに解説を加え、現代の六壬占事略决六壬を比較するという形態で解説を進めて行きます。

本書は序章と第一部・第二部から構成されています。序章では占事略决がどのような書物であったかという資料的性格についての解説と、六壬がどのような占術であるかを略决の古い六壬と現代の六壬を比較しながらの解説です。そのため占事略决の著者である安倍晴明の人となりについても触れています。第一部六壬神課を使って占うという事柄が具体的にどのような内容を持っているのかについて解説しています。六壬では占いを依頼された時刻から、四課三伝を立ててそれを元に占いますが、その四課三伝の算出方法についてかなり突っ込んだ解説を行います。またその四課三伝からどのように占うかについて、具体的な占例をもとに解説します。第二部が占事略决の解説です。現代の六壬と比較しながら解説を進めて行きます。

なお四課三伝を算出することはかなり煩瑣な事柄であり、解説を一読してできるようになるわけではないので、四課三伝を算出するプログラムを付録につけておきます。このプログラムの出力には、算出した四課三伝が関係する占事略决の項目が参考情報として付加されているので、占事略决を併読しながら占うことが可能です。

とまあこんな本です。

本書は1冊で3度美味しい本になってます。一つは表題通り、占事略决をその来歴を含めて解説していること、二つは占事略决の校訂本になっていること、三つは六壬の入門書になっていると。一つ目と二つ目については、本書で底本とした尊経閣文庫版の翻刻の許可を前田育徳会様から頂くことができました。一応、前田育徳会様の審査を通過しているので、内容的に変でないと言って良いでしょう。

現在、23日の完成日に向けて印刷−製本工程に入ってます。初版1000部ということで、あまり普通の本屋には出回らない本です。入手方法などは追ってまた。